長崎県作業療法士会

広報依頼はこちら お問い合わせはこちら
長崎県作業療法士会

講師紹介

①特別講演

特別講演Ⅰ:「生きづらさのある人の理解と関わり」

講師:岩根 達郎

作業療法は人々の健康と幸福に寄与する職である.様々な疾患や障害,困難さのある人を対象に,その人がより良く生きようとすることへ作業という視点で関与していく.近年の臨床では「生きづらさ」のある人に出会うことが多い.生きづらさのある人は,作業療法の対象者だけでなく,街のなかにも,あなたのそばにもたくさんいる.
当日は,生きづらさのある人の理解と,作業療法は何ができるのかを考える機会としたい.

【準備委員のコメント】
精神科リハビリテーションの最前線で働く専門作業療法士の岩根さんに,当事者の生きづらさに寄り添うために,どのように働きかけるべきか,ご教授していただきます.OTの立場から,社会問題にも積極的に関わる責任を持つ.分野に限らず,生きづらさのある人への理解と支援について学びを深める機会になると思います.

特別講演Ⅱ:「質の高い作業療法とは何か!」-これから作業療法士に求められること-

講師:大庭 潤平

本講演の目的は,人々の人生を豊かにするために『質の高い作業療法とは何か』を考え,あなた自身の幸せな作業療法士キャリアとは何かを考える機会にすることである.わが国の作業療法士有資格者数は100,000人を超え,世界第2位である.社会情勢の変化と対象者のニーズや権利に対する意識の変化に伴い,これまで療法に専念していた作業療法士らは,人材育成,医療安全管理,経営管理などの組織運営と自己研鑽に責任を負う時代になった.さらに2020年から養成教育課程科目に「作業療法管理学」が位置付けられた.世界の動向では,WFOTが作業療法マネジメントツールとしてQuality Evaluation Strategy Tool (QUEST)を開発した.これから作業療法士に求められることは何かをお伝えしたい.

【準備委員のコメント】
2020年4月施行の改正指定規則では「作業療法管理学」が養成校のカリキュラムに必修化され,さらに重要な領域となりました.日本作業療法士協会の大庭常務理事に,「作業療法管理学」の最新な内容とキャリア形成やOT協会事業等,作業療法士のキャッチ―な話題をご教授していただきます.

②教育講演

教育講演Ⅰ:「記憶障害の作業療法」〜認知心理学の立場から〜

講師:鈴木 孝治

作業療法の臨床に適応できる理論は数種提案されているが,ヒトが生活する環境とのやりとり,すなわち情報処理の理論は欠かせない.その基本的な考え方を提示しているのが,認知心理学である.一方、脳の局在とその損傷により出現する臨床症状との対応に重きを置く神経心理学を知らない作業療法士は皆無であると思う.現在の我が国の作業療法教育では,この情報処理理論を基盤とした認知心理学の概説が不十分である.特に,注意や記憶およびそれらの障害を説明し,介入ストラテジーを考える際には,認知心理学は最適であると考える.今回の講演では,心理学の歴史にも少々触れつつ,認知心理学の概要を説明し,手続き記憶を中心とした記憶とその障害,さらには動作・行為の手続き化のポイントついて演者の考え方を紹介する.

【準備委員のコメント】
高次脳機能障害について,神経心理学的検査だけでは治療戦略に繋がらず,介入方法に悩むことがあります.そこで,多くの著書や研究発表を行われている認定作業療法士の鈴木さんに,認知心理学をベースに高次脳機能障害の基本的な介入方法について,ご講演していただきます.私たちが改めて考える機会になると思います.

教育講演Ⅱ:「地域在住認知症高齢者の生活行為に資するリハビリテーション」

講師:田平 隆行

新オレンジプランでは,有する認知機能等を最大限に活かしたADL/IADLに対するリハビリテーションを重視している.ADL障害は,主観的認知障害や軽度認知障害の段階から,中長期的なマネージメントを含む金銭管理や服薬管理等の複雑なIADLから障害され,徐々にBasicなADLへと進んでいく.しかし,中重度者であっても部分的に残存していることは多く,それらの工程を継続して実施できるよう支援することが重要であると考えている.同時に認知機能に応じて低下するADL工程の特徴を捉え,視聴覚等の手かがりや残存機能を活かした介入や物理的環境等から支援することが求められる.我々の研究グループでは,生活行為の障害及び残存する工程を捉えやすい生活行為工程分析表(PADA-D)を開発し,在宅のアルツハイマー病高齢者を中心とした生活行為の特徴を示してきた.例えば,調理では,献立や食材の調味については障害されやすいが,食材の加工(切る・剥く,炒める等)など手続き的記憶を利用しやすい工程では残存しやすいことを明らかにした.さらに生活行為工程分析に基づいたリハビリテーションの3カ月効果も示した.生活行為を工程分析し,目標や介入ポイントを明確にした支援は,認知症高齢者が住み慣れた地域に継続できるための一助になるかもしれない.

【準備委員のコメント】
長崎に縁の深い田平さんに,「認知症」「在宅」をキーワードに,多くの研究発表にアップデートした内容に加えて地域リハビリテーションの実践を,ご講演していただきます.コロナ禍で家庭訪問や介護指導が難しい状況が続きますが,在宅を知ることや退院支援の一助になると思います.

③学会企画セミナー

学会企画セミナーⅠ:「今日からできる!人と人を紡ぐ意図したコミュニケーション」〜コロナに負けるな!目指せ変対OT〜

講師:前田 大輝

近年,COVID-19の影響により,対面で人と接触する際に表情や感情がうまく伝わりにくい,人と交流する機会が極端に少ないといった現状がある.
さらに,医療や福祉の現場において作業療法士の人数は他職種と比較すると少ない職場が多い.様々な状況で心理的安全が保たれないまま,コミュニケーションに不安を抱えている作業療法士は多いのではないだろうか.前述したCOVID-19の影響で,今まで当たり前に行われていた研修会などもオンラインでの開催が多く,手軽に研修会に参加できるメリットはあるものの,職種間の縦や横の繋がりは以前と比べると希薄なのではないか.
今回,当院で患者さん,家族,同職種,他職種と意図的なコミュニケーションをとっていくために取り入れているCRAFT(Community Reinfbrcementand Family Training)のスキルや当院の多職種連携,地域支援についての取り組みをご紹介し,生活や実践に繋げて頂きたい.

【準備委員のコメント】
若手向けに長崎地区主催と合同で企画した研修です.認定作業療法士の前田さんに,変化に対応できるOTを目指すための対象者や他職種とのコミュニケーションスキルについて,ご講演していただきます.コロナ禍だからこそ,明日からの臨床に活かしていただきいと思います.

学会企画セミナーⅡ:「作業療法の価値を活かした新たなビジネスを創る」〜産・官・学・金連携による「地域共創型」ベンチャー〜

講師:元廣 惇

皆様は「健康経営」という言葉を耳にされたことがありますでしょうか?
健康経営とは従業員等の健康管理を経営的な視点で考え,戦略的に実践することです.私たちは「くらす」ことと「はたらく」ことの専門家として,この市場に作業療法士が参画するモデルを構築する必要性を感じ,2021年3月に株式会社を創業し,現在島根県をはじめとした産官学金のサポートを受けながらDXやフランチャイズなど全国で事業を進めています.この事業で私たちは労働生産性低下や休職・退職につながる「職業病」の分析と解消を行い,その文化を地域や関連業界に根付かせることを目指しています.
作業療法が持つ本質的な魅力や価値はこの健康経営市場をはじめとした他分野でも十分に発揮できる可能性があると私は確信しています.まだまだ道半ばではありますが,健康経営,地域課題解決,教育,研究,開発等事業をそれぞれどのように地域共創し,それらが円環する仕組みにしているのかについて実例をもとにご紹介させていただきます.

【準備委員のコメント】
作業療法の価値と哲学を産業分野と融和し,新たな作業療法の価値を創ることで,ベンチャービジネスに活かす.労働安全衛生で新しいサービスを確立=会社に対して作業療法を実践する.認定作業療法士の元廣さんの実績を積み重ねたご講演は,これからの私たちにインパクトを与え,作業療法の大きな可能性を持つと思います.

学会企画セミナーⅢ:「医療的ケア児の母になって」〜自助サークルの立ち上げと実践〜

講師:川添 奈菜

精神科病院の作業療法士として勤務していた2018年,4人目の子どもを妊娠,胎児診断を受ける.出生後は医療的ケアが必要となり,在宅看護を行う.妊娠中から出産,医療的ケア児の育児の中で,様々な葛藤,不安,恐怖を抱く.復職を断念し,在宅看護を続ける中で,同じような経験をしている母親の精神的不安や負担を軽減したいと考えるようになる.「母親たちが気兼ねなく話せる場所を作りたい」想いから,SNSで自身の経験や思いを発信することを始める.
現在,ピアサポート交流会(オンライン,対面),胎児診断を受けた母親たちへピアサポートリーフレットの配布,インクルーシブ子育てサロンを実施.今回,これまでの1年間の実践と今後の展望,元作業療法士だったからこその気づきを加え,お伝えしたい.

【準備委員のコメント】
地元長崎を離れ,鹿児島を拠点にSNSを活用したピアサポートに取り組まれています.医療的ケア児ママ応援団 coconowa代表の川添さんに,胎児診断~出産~育児までの母親の心境,自助サークルの想い,今後の展望をご講演していただきます.分野を越えて専門職,行政,当事者等に有益な情報共有の機会になると思います.